セルフレジの台頭、停滞、そして変化
2024 年 6 月 7 日
2020年にパンデミックが発生して以来、セルフレジシステムは「店員との接触を避けられる」という利点から、以前よりも幅広く利用されるようになりました。しかし、セルフレジには消費者と事業者の双方にとって、それぞれにメリットとデメリットが存在します。
注目すべきことに、2024年には米国の一部の大手小売業者が、セルフレジの使用を段階的に廃止または減少させ始めましたが、一方で人手不足というジレンマにも直面しています。本記事では、セルフレジシステムの台頭、成長、停滞、そして近年の変化について詳しく探ります。
セルフレジの台頭と成長
1986年、世界初のセルフレジが米国アトランタのKrogerスーパーマーケットに登場しました。この革新的なコンセプトは、1984年にDavid R. Humbleという人物がスーパーでの会計待ちの際に体験した出来事から生まれました。
彼は、レジ待ちの長さに不満を抱く前方の男性客が、怒りに任せて自分で商品のスキャンを行い、会計を素早く済ませようとした場面を目撃しました。この光景がDavidにインスピレーションを与え、「なぜ誰もが自分で会計をして、すぐに店を出られるようにできないのか?」と考えました。そこで、彼は当時勤めていたCheckRobot社にこのアイデアを提案し、同社はそれに基づいた設備を開発、Krogerとの協力に至りました。こうして1986年、Krogerに正式にセルフレジシステムが導入されたのです。1
それから30年以上が経ち、セルフレジは絶えず改良とアップグレードを重ね、バーコードのスキャン機能だけでなく、釣銭の処理、重量測定、会員ポイントの蓄積など、さまざまな機能を備えるようになりました。
セルフレジのメリットとデメリット:消費者の視点
セルフレジに対する評価は賛否が分かれています。
操作に慣れている顧客にとって、セルフレジは迅速でシンプルであり、店員とのやり取りを避けたい人には便利です。しかし、操作に不慣れな消費者にとっては、従来の有人レジより時間がかかる場合もあり、長い列ができることもあるため、後ろの顧客も待たなければならなくなります。
Capgeminiの調査によると、66%の消費者が「レジ設備の自動化」によって長蛇の列が解消されると信じていますが、店員のサポートがない場合には51%が不安を感じると回答しています。また、42%の消費者はセルフレジを便利だと感じておらず、使用のたびに店員の助けが必要だと述べています2。このデータからも、現代技術が発展してもなお、セルフレジが「店員のサポート」に依存していることが示されています。
また、「本来店員が行うべき会計作業を消費者が自分でしなければならない」という不便さや不満の声もあります。人間の接客と比べ、機械操作は温かみがなく、店員との交流を好む顧客にとっては、セルフレジがなじみにくいと感じられる場合もあります。
セルフレジのメリットとデメリット:事業者の視点
事業者にとって、セルフレジは諸刃の剣です。
システムが適切に設計され、操作が簡単であれば、セルフレジは会計効率を大幅に向上させ、人件費の削減にも寄与します。また、多言語対応機能を備えたシステムは、一部店舗において多言語対応スタッフの雇用を不要にするため、大きなメリットです。
少子高齢化による労働力不足がコロナ後に深刻化し、セルフレジシステムは人手不足を補う解決策としても注目されています。
ただし、複数の顧客が同時にセルフレジで問題を抱えると、サポートするスタッフは対応に追われることになり、適切に対処できないと顧客の不満や苦情が発生しやすくなります。
セルフレジ発展の停滞
セルフレジに伴う問題が注目される中、消費者の権利保護や店員の労働権を守るため、2024年に米国カリフォルニア州の立法者は、新たな法案を検討しています。この法案は、店舗が以下のすべての条件を満たさない限り、セルフレジの使用を禁止するものです。3
- 有人レジを少なくとも1台設置すること
- セルフレジでの会計商品数を10点以内に制限すること
- 特定の商品についてセルフレジでの購入を禁止すること
- 一人の従業員が対応するセルフレジは最大2台までとし、他の業務を同時に行わせないこと
これらの規制は地域の懸念を反映し、政府だけでなく多くの大手小売業者も方針を見直し始めています。たとえば、Targetは購入商品が10点以内の顧客のみセルフレジの利用を認めており、Dollar Generalは盗難率の高さから300店舗でセルフレジを廃止しています。また、Krogerもダラス店舗で有人レジを追加しています。4
「Grab-and-Go」はセルフレジに代わる選択肢か?
2018年にAmazonが導入したAmazon Go店舗は、消費者が商品を手に取ってそのまま退店できる「Just Walk Out」技術を採用し、従来のレジ方式を一新しました。しかし、2023年には9店舗のAmazon Goを閉店し、Amazon Freshではスマートショッピングカートへと転換しました。これは「Just Walk Out」方式がいまだに改善の余地があることを示しています。具体的には、高額な設置・維持費用や利用上の多くの制約が課題として残されています。
セルフレジの未来の発展
「Grab-and-Go」方式に続き、セルフレジを代替する技術がさらに増えつつあり、「AI画像認識レジ」が注目されています。この技術はAmazonの「Just Walk Out」に似ていますが、より軽量で、店舗全体にカメラを設置する必要がなく、各棚に重量センサーを取り付ける必要もありません。これにより、導入のハードルが下がり、コストも抑えられます。
従来のバーコードを一つずつスキャンする方法とは異なり、消費者はレジで購入したい商品をすべてカメラの下に置くだけで、AI画像認識技術により一秒で全ての商品が認識され、会計時間が大幅に短縮されます。
さらに、パンやケーキ、野菜などバーコードのない商品も即座に識別可能です。
消費者にとっては、直感的で簡単に操作でき、理解するための過程も少なくなります。一方、業者にとっては、商品のスキャン漏れの心配が減り、AIが正確に商品を識別するため、安心してシステムを運用できます。
ViscoveryのAI画像認識システムを運用するセルフレジを例にとると、この技術は現在、シンガポールの海底撈グループの中華麺屋「ハイヌードル」や日本の仙台百貨店などにも導入され、従来のセルフレジの制約を打破し、消費者のショッピング体験を大幅に向上させています。
技術革新と顧客サービスのバランス
技術が急速に進化する中で、会計システムもAIの導入により進化を遂げ、その将来には大きな可能性が広がっています。しかし、業者や技術提供者は常に消費者のニーズや体験に注目し、システムの継続的な最適化を図る必要があります。新技術の導入が片方の利便性を損なうことなく、より人間的で操作が容易なシステムを目指すことが求められます。技術革新と顧客サービスのバランスをいかに保つかは、業者が引き続き注目すべき重要な課題です。
[出典]
1 Moore, Riley. “Employee Suggestion Origin Story: Self-Checkout Machines.” Direct Suggestions Biweekly newsletter, 21 November 2023, https://www.linkedin.com/pulse/employee-suggestion-origin-story-self-checkout-machines-riley-moore-c5oec/.
2 Capgemini Research Institute. “Smart Stores: Rebooting the Retail Store through in-store Automation.” Capgemini, January 2020, https://www.capgemini.com/wp-content/uploads/2020/01/Report-%E2%80%93-Smart-Stores.pdf.
3 Saab, Ginger Conejero and Ian Cull. “New California bill could force stores to close self-checkout.” NBC Bay Area, 6 May 2024, https://www.nbcbayarea.com/news/california/california-bill-stores-self-checkout/3530545/.
4 Hamstra, Mark. “Walmart removes self-checkout from two more stores.” Supermarket News, 23 April 2024, https://www.supermarketnews.com/retail-financial/walmart-removes-self-checkout-two-more-stores.